フォニックスって必要?
こんにちは、英語子育てパパです。
英語育児に関心のある方なら、おそらく一度くらいは「フォニックス」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。
「フォニックスで発音を身に付ける」といった文言で書籍や教材が販売されていたり、英語教育系ユーチューバーなどが「フォニックスで発音指導」なるものをおこなっているのをよく見かけます。
またフォニックスの指導はアメリカやイギリスでも子どもたちを対象に当たり前におこなわれているものでもあります。
そうしたこともあって、「フォニックスは子どもたちが発音を学ぶためのもの」という認識や、「我が家でもフォニックスでネイティブ発音を子どもに身に付けさせたい」という期待を持っておられる方も多いと思います。
でも実は、「フォニックスで発音を学ぶ・教える」というのは間違っているんです。
フォニックスで発音を学ぶことはできません。
なぜなら、「フォニックスはそもそも発音を学ぶためのものではない」からです。
では何なのかというと、
「発音と綴り(スペル)の関係を学ぶためのもの」
です。
ここで言う発音とは、これから学ぶ発音ではなく「すでに知っている発音」のことです。
つまりフォニックスとは、
「すでに身に付けている発音と綴り(スペル)の関係を学ぶためのもの」
なのです。
たとえばreadという単語があったとして、これを普通に正しく『リード』と発音できる人が、「eaは『イー』の音に対応するのだ」、というようなことを学ぶためのものです。
これが結果的に、「readは『レアド』ではなく『リード』と発音するのですよ」と発音の仕方としてeaを結びつけるため、これを発音学習に誤って転用してしまったものが、現在多くの人が勘違いしている「フォニックス」となっているわけです。
子どもたちの言語獲得の様子を見ていてもわかると思いますが、子どもは4歳や5歳にもなれば、自分の言語の発音を正確に覚えて正しく言えるようになりますよね。
文字の読み書きができなくても、発音はネイティブとして身に付き、知っています。
そんな子どもたちが、アルファベットが読めるようになったときに、その文字(綴り)とすでに知っている発音を結びつけられるように学ぶ。これがフォニックスです。
その意味でフォニックスは、漢字の読み方の学びに似ています。
たとえばある日本語話者の子どもが「くるま」という言葉を知っているとします。
正確に「くるま」と発音でき、意味も分かっています。
でもその子は漢字の「車」を知りません。
そんなとき、「この漢字は「くるま」と読むんだよ」と教えることで、その文字と自分の発音を結び付けて学ぶことになります。
発音を知っていることは前提で、それを文字と結びつけることで正確に読めるようにする、というわけです。
誰も「車」という漢字から「これは「くるま」と発音するんだよ」とその発音を教えたり学んだりはしませんね。
だから、発音が身に付いていない人がそれを新たに身に付けることを目的とする、というのはフォニックスの本来の役割ではないのです。
「フォニックスで発音を学ぶ」学習は「車」から「くるま」という発音を学ぶ、ということをやろうとしているのと同じなのです。
そもそも発音を正確に学びたければ、綴り字ではなく発音記号をはじめ発声、舌の動かし方、口周りの物理的な筋肉の使い方などを学ぶ方が理にかなっています。
そうしたこともあるので、フォニックスの指導には注意が必要ですし、フォニックスの前に、正しい発音をたくさん聞かせて、それをまねて正確に言えるようになることを目指させる方が自然です。
それにフォニックスはわざわざ学ぼうとしなくても、ある程度の語彙力と発音が身に付いてくれば、経験的にいつの間にか自然と身に付いてくるものでもあります。
たとえばread、sea、peach、easy、teacherなどの単語を知っていれば、eaは「イー」と発音するのだ、ということがスペルと音の共通点からの推測によって分かるようになります。
わざわざeaは「イー」だよ、などと教えるまでもなく、その程度の法則性は自然に身に付くのです。
ここで試しに、orphanという単語がどのような発音か想像してみてください。
(意味は「孤児」です。)
おそらくほとんどの人が「オーファン」という音を想像できるのではないでしょうか。
少し英語をかじったことのある人なら、まさか「オープハン」のように発音するとは思わないでしょう。
多くの人はphone「電話」やelephant「象」やphoto「写真」などからphは「f」の音になることを経験的に知っているため、そこからorphanの発音も推測できるからです。
子どもも大人も、ある程度の学習量があれば、その経験と知識によってスペルから音を推測することはそれほど難しいことではないのです。
だから個人的には、アルファベットが読めるようになってからは、フォニックス云々ではなく、日ごろから文字を見せながら音を聞かせたり言わせたりするようにして自然と身に付けさせる程度でいいと思っています。
加えてフォニックスには、「例外が多い」という側面もあります。
さきほどのeaを取り上げると、多くの場合は「イー」と発音しますが、greatやbreakでは「エイ」と発音します。
「グリート」や「ブリーク」とは発音しませんね。
一見知っていると便利そうなフォニックスでも、そうした例外が登場したとたんに「ちょっと待て」と戸惑いを生んでしまったり、誤った発音を認識させてしまう種になってしまいかねません。
そしてその種はあまりにも多いのです。
だから、あまりにもフォニックスにこだわっていてはむしろ逆効果になることさえあり得るのです。
そのリスクを思えば、発音指導はフォニックスよりも、発音記号を用いた方が正確で現実的と言えるでしょう。
とは言え子どもに発音記号は負担が大きいですから、まずは大量のインプットを通して正しい発音を覚えさせ、自分でも言わせてみてしっかりと身体で覚えさせる。
そしてアルファベットが読めるようになってきたら、単語を見せながら同じように聞いたり言ったりを繰り返させることを心がけてください。
その積み重ねによって、いずれは未知語であってもほとんど間違えることなく音と綴りの関係を身に付けられるようになります。
日本で漢字の読みを教えるように、アメリカやイギリスでも、基本的には読み方の補助として子どもたちにフォニックスを教えているにすぎません。
間違っても、フォニックス自体が発音の獲得と向上を促すものではないのです。
「フォニックスで発音を」とうたっている人々も、「このスペルはこうやって発音する」と教えつつ、結局はそれは発音記号や発声、口の動かしなど、スペル以前の発音方法を教えているにすぎず、ほとんどの場合、フォニックスの名前を借りつつ、本質的には普通に発音を教えているだけなのです。
だからわざわざ「フォニックス」という言葉を使う必要なんてありません。
最後に、フォニックスを英語育児に取り入れること自体は決して悪いことではありません。
読み方の補助として有効な部分はあるからです。
ただ、上にも書いたように、フォニックス本来の目的を忘れて「フォニックスで発音力を上げよう」などとは考えないようにしてください。
発音力だけなら、幼児であればCDや動画などでネイティブの声を大量に聞かせて真似させるだけで驚くほど正確なネイティブ発音を身に付けていきます。
実際僕も息子にフォニックスを教えたことなど一度もありませんが、今では僕以上に正確に英語を発音できます。
妻が英語絵本の読み聞かせをするときなど、「ママ、その発音違うよ」と訂正さえしてくれます。
発音の入り口は、まずは「聞かせること」と「真似させること」なのです。
そしてその経験は、発音どころか英語力自体を劇的に向上させるのです。
やがてアルファベットを覚えて、それなりに読めるようになってから、あくまで読みの補助としてフォニックスを部分的に取り入れる程度で十分ではないかと思います。
大人の方が発音を学びたい場合も、フォニックスは必要ありません。
文字を使って後天的に発音を学ぶなら、揺れ動くスペルや例外だらけのフォニックスからではなく、発音記号から学ぶことが正解だからです。
ついでに言うと、フォニックス指導をうたう有名ユーチューバーの中にも誤った知識をそうと気づかずに配信してしまっている人もいますので、なお注意が必要です。